はじめての林業(体験)


2019年12月、あるご縁で、香川県の林業家・西村さんの山に伺い、案内と様々なご説明を伺いました。

最初にお断りしておきますが、林業体験とは書いたものの、本当の林業とは程遠いもので、たとえば”田舎暮らしの気分を味わう”感じで”薪割り体験”をした程度の事です。西村さんの作業の”ほんの少し”を拝見したのがほとんどで、ちょっとだけ”ある体験”をさせていただきました。それはのちほど。

家に木を使う事をお勧めしている割には、その木を生産してる(育ててる)現場の事をほとんど知りません。山に行って木を眺める事くらいはいつだってできるし、してきましたが、実際に『林業』というお仕事をされている方のお話しを「その方の山の中で聞ける」なんて機会(チャンス)なんてまずないわけで、思い切って伺う事にしました。


家に無垢の木を使いたいと思う方はたくさんいらっしゃいます。それは素晴らしい事です。無垢の木が「健康素材」「安心な素材」という事でも選ばれていらっしゃると思います。

それと同時に、無垢の木を使う事が、山で働く人の『糧(かて)』となりそして「山も守る事」につながる事も知っていただけるといいなと思います。


はじめての林業(体験)

西村さんの山。右側が植林している部分。


林業とは木を植え育て、育った木を伐りそれを売る事で利益が出ます。

ビジネスとしてはいたってシンプルです。ですから「(材木となる)木なんて勝手に育ち大きくなったら伐ればいいんじゃないの?」と思う人が、もしかするといるかもしれません。しかし!・・

植えた木を伐ってお金を得る事ができるのは・・・早くても50年60年後。「父が植え、自分が育て、子供が伐る」というスパンのビジネスです。時間が掛るとともに、放って置いた木では『商品』にはなりません。様々な段階での手入れが必要で、「手を掛け生産している」のです。


「じゃあ、林業っていったい何してるの?」


”林業”初心者である私が見て聞いた事を、ここにレーポートとしてまとめます。





木を植える場所を作る

はじめての林業体験

はじめての林業体験

【木を植える場所を作る】


木を植える場所を作る(地拵え=じごしらえ)


木を伐るのが先か植えるのが先かというのは・・きりのない話しですので止めます。

苗木を植えなければ始まらないのですが、その前段階として『植える場所』を作らなければいけません。やる事は”野菜をつくる”のと同じですね。

ただ、山の急斜面ですから、「作る」といっても簡単ではありません。


まず、雑木と言われる広葉樹系の木を伐ります。その前に立ち木の位置を見極め、土に杭を打ったかのように根元を残します(=中伐り)。そこに伐った枝や幹を引掛け、段々畑の土留めのようにし「苗木」を植える「土の部分」を作ります。ただ伐っただけで枝や幹がそのままでは、苗木を植える作業ができません。畑のように『土の部分』を作る作業です。


【雑木を伐る】





苗木を植える

はじめての林業体験

【植えて約2年半のヒノキ】


この辺り、イノシシで農作地に被害がでているそうです。山の中では、植えたばかりの苗木を野ウサギがかじったり、イノシシがキバで引き抜いたりするそうで、動物達との戦いが大変です。写真のように、このくらい(2年半くらい)に成長するともう安心だそうですが、それまでは気が休まりませんね。。


はじめての林業体験


植えるといってもこんな斜面(写真ではわかりにくいかも・・)。大変な作業です。


【西村さんの解説】

植林の作業サイクルでは、植えて6年間は毎年夏場に「下刈り」と言って下草や雑木の新芽を刈り払ってヒノキの成育を手助けします。下刈りは7~8月頃一番暑い時期に行いますので体力の消耗が激しく、無理すると熱中症になります。私は今年、空調服と言って小型扇風機のついたシャツを購入して下刈りしましたが、効果がありました。





枝打ち

はじめての林業体験

やっているのは私です。これを体験しました。地上から3mほど。いかにも不慣れな感じが出てますね。

15年生ぐらいで天然のもののヒノキだそうです。後でそれを聞いたんですが、植林してる山の中に「天然もの」があるなんてビックリ!

はじめての林業体験

こんな道具を使います。【枝打登降機】というそうです。足をはめる物。自転車のサドルのような座る部分があり股の間に挟む物。その二つを使いそれぞれについているチェーンを締めながら(←降りる時は逆)順番に上げて尺取り虫のように上にあがっていきます。幹の直径40cmから10cmくらいまでを昇り降りでき、安定して枝打ちする事ができる”優れ物”だそうです。

枝打ちは、一時間あたり5~6本、一日5~6時間の作業されるそうですが、そうすると一日あたり30~40本だとか。すごいですね!

西村さんのお手本





間伐

はじめての林業体験


間伐とは、木の成長過程で、良い木を残すために、『間引き』をする事です。


写真の木は「15年くらい?」。真っすぐな木は、3mくらいに切れば「杭」(土木工事で使う?)として買い取ってもらえるそうです。でもすごく安い。手間掛けるのもバカらしいかもしれません。とは言っても、間伐で伐った木を放置するのは、それまで育てたわけですから心苦しいでしょうね。かと言って手間掛けてもほんわずかの金額。・・・


【西村さんの解説】

10年目に間伐と枝打ちをします。以後、20年、30年、40年と三回~四回ぐらい繰り返します。優勢木を残し、曲がりや芯が折れたり成長の劣る劣勢木を優先して毎回2~3割ずつ淘汰していきます。1ヘクタールに3,000本植えた苗木が最後には800本程度になります。

このようにして、30年ぐらいで手入れが行き届けば後は自然に大きくなるのを見守り続けます。と言いたいところですが、30年間理想通り手入れできるのはほんのごくわずかでしょう。というのも、専業林家でも手間と意欲と技術がそろわないと、なかなか出来ませんよね。




はじめての林業体験

「約30年生のヒノキです。ヒノキの特徴として、一度枝打ちしたところから脇芽は出ま せんが、スギは脇芽が出やすい。」

(西村さんの解説)


はじめての林業体験

「72~73年生のヒノキです。地質が良く水分もあって林齢の割に太りが早いのと樹高も高めです。」

(西村さんの解説)


素人が見ても、キチンと手入れされたであろう事がわかります。とても神々しく感じます。




はじめての林業体験

西村さんの山があるのは、 香川県仲多度郡(なかたどぐん)まんのう町。 とても美しい里です。



山仕事のリスク

【西村さんの解説】

典型は危険性です。刃物や機械を甘く見ると擦り傷にとどまらず大けがや命に係わる事故も珍しくありません。

実際、昨年私のいとこは倒木の下で命を落としましたし、私も5年前伐った木が、生きた木にもたれかかり、すぐ下で作業していたところ風が吹いて”もたれかかっていた木”(←「かかり木」という)が背後から倒れ掛かって頭部をかすめて吹っ飛ばされて寸でのところで僅か3㎝ずれていたら下敷きになるところでした。

また、枝打ち中、のこぎりが勢いあまって左手の静脈や神経を切ったりもあり、ヒヤリハットは数え切れません。

ですので、安全第一を徹底するとともに、作業開始時は山の神様に無事をお 祈りし、終業時にお礼のお祈りを心掛けています。



山仕事のよいところ

【西村さんの話】

朝からはじまり夕方までやりますが、仕事の成果が見えるので満足できます。

地道な作業ですが、木を植え育てる事で空気や水の地産地消に役立ってるのだろうと思っています。「わずかでも世の中の役に立ってる」そう思うと、大変だがやりがいがあります。

自分が手入れしたもの(木)の成長を見届けるばかりではありますが、後世に受け継いでもらえたらいいな~と思っています。




西村さん(64歳)はおひとりで先祖からの山を続けていらっしゃいます。

会社にお勤めになりながら週末に山仕事をされて来ました。62歳で退職されその後は毎日山に行かれて作業しています。

西村さんに案内していただき教えていただいた事は、林業のほんの一部だけの話だと思っています。

危険な事がたくさんあり、野菜のように目に見えて成長しすぐに収穫できるわけでもなく、こつこつ地道な作業です。

そうやって命がけで育てた木は、悲しい事に1本あたりそんなに高い値段ではありません。私達が使う材木の柱や梁など、一本あたり数千円から1万円ちょっとです。(もちろん私達にとって”安い”に越した事はありません。が)


梁材が作れる、40~60年かけて育てた直径(末口)30cm~36cmの杉材が、柱しか作れない、15~20年生の直径(末口)14~22cmの材より安い・・もう一度言います。年数が多く太い木のほうが「安い」!そういう現象も起きてるそうです。


きっと日本の山は、西村さんのような個人林業家も頑張っているんだと思います。でもどんなに頑張っても、トントンかそれ以下の利益しか出ないなら、「もうやめた」と思うの、当たりまえですよね。


それでもギリギリやれているのは、いろんな補助金(助成金)があるから。それについてはいろいろな意見や批判を目にしますが、現実にはそれがなくてやる人がいるのだろうか?


国が、各都道府県が、林業普及協会などなどが、いろいろなアイデアを出し活動されているんだろうけど、すごい解決策があるわけではありません。


ただ言える事は・・・

私達が日本の木を使えば、日本の山に還元されるという事。


山が放置されれば、長雨や台風の大雨で斜面が崩れ大量の木が流れ、それが街を破壊します。そんな映像を毎年見ています。山が健全である事は、私達の命にも関わる事です。


家に木を使う事は、健全な室内環境を作る事、人の心を穏やかにする事、に役立ちます。そして・・もっと言えば国産の木を使う事は、日本の国土を健全に保ち、私達の大切な家族や友人を守る事につながります。


床材だけだとしても・・そんな事に貢献できたと、思ってもらえるといいなと、思います。


このレポートで、「こんなふうに木(材木)ってつくられているんだ」と思い、どこかの山を見た時に、”そこで木を作り山を守ってる人がいるんだ”と思いをはせてもらえたら、幸いです。



関連


杉の床の暮らし


林業についてわかりやすく説明されているサイトを見付けました

森林・林業学習館




”考えている事・見ているもの”が「何か違う」と、ひとりで悩み続けないで、よかったら、家の話しをしませんか。

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